坂の上の、山を背にした位置にある今の“アトリエ”を、「四季折々の表情が楽しめてとても好き」だという“もえさん”。窓からは南に大きく広がる空や五山の送り火で有名な大文字の山も望めます。
アトリエには、3つの机が備えられています。
ひとつは、長年愛用している大きな緑の机。この机で様々なイラストが誕生します。
ふたつめは、原稿やお便りを書く机。
最後の机は、絹絵制作とパソコン専用。沢山の本や、可愛いオブジェ、お気に入りの写真たちに囲まれた居心地のよい空間です。
「緑の机が置ける場所さえあれば、どこにアトリエを移しても今と同じように楽しく仕事をしていると思う。」
大好きな大きな緑色の机がある場所は、どこであってもたちまち“もえさん”の世界を創りだす“アトリエ”になるようです。
「絵描き」には様々なジャンルがありますが、永田作品は「イラストレーション」という分野で、ご依頼に応じて作品を制作します。描く対象は形のはっきりと決まったものばかりではありません。それどころか、「夢」「愛」「希望」などの目には見えないけれど、大切なメッセージを表現して欲しい、と言われることが殆どです。
「花と妖精」を描く“もえさん”のファンタジックな世界はそんなシーンにぴったり。と同時に、1枚の画面からお話が生まれるようなストーリー性も大きな特徴です。「萠さんの絵を観て癒されました」「心が温かくなります」と、感想を持ってくださる皆さんの中の「夢みる心」と共鳴して、ファンタジーの世界は広がります。
描いている本人も、「描きつつ自らの絵でなぐさめられる」、そんなところが皆さんにも親しんでいただける作品になっているのかも知れません。
約40年前に、やなせたかしさんから届いた一通の手紙は、当時まだ駆け出しのイラストレーターだった“もえさん”にとって、運命の出会いともいえる出来事でした。
その手紙とは、子供達の詩に挿し絵をつけて出版されていた雑誌『いちごえほん』のレギュラー画家のひとりに、というお仕事の依頼でした。
後々、なぜ自分を採用しようと思われたのか?との問いに、「イラストを見ていい人そうだと思ったから。」と返答されています。
その不思議な答えの奥には、「子供達の為の絵だからこそ、手を抜かずに描く人でないと上質な夢と絵は生まれないと信じている。それには、描く人も上質でないといけない。だから萠さんに頼もうと思った。」と、深い意味が込められていました。
その言葉を聞いた瞬間、今後の道が定まったという“もえさん”。子供の頃に見た絵を大人になっても見続けたい、また、自分の子供にも見せてやりたいと思ってもらえる、そんな絵を描いていこうと心に決めたそうです。
“もえさん”は宝塚歌劇、ミュージカル、お芝居、そして映画を鑑賞するのがとても好きです。
色々とお気に入りの作品はありますが、その中に『コーラス』(2004年・仏)という映画があり、そこに登場する当時13歳だった主役の美少年の歌声は、一度聴くと忘れられなくなってしまう程です。美しいもの好きの“もえさん”が心奪われないわけがありません。
2007年秋にフランスで自身の展覧会を開催した折、ブルゴーニュ州にあるワイナリーを訪れた“もえさん”は、地下貯蔵室の壁に飾られたある1枚の写真を見つけました。なんと、この映画で教師役をしていた俳優のジェラール・ジョニュもこのワイナリーを訪れたことがあったのです。
嬉しいサプライズで、益々この映画が好きになった“もえさん”でした。
画面から風がそよぎ、メロディが聞こえてくるような、永田萠の作品世界。「一枚の画面の中にもストーリー性ある、動きのある絵を描きたい」という想いを形にする大きな味方は、音楽です。
アトリエに入ると先ず、絵のテーマやその日の気持ちに合った曲を選び、CDをセットすることから始まります。カラーインクの軽やかさと歩調を合わせる優しい音色は、フルートやバイオリンのクラシック。豊かな声質を持つ歌手が歌うジャズやボサノバはリズミカルで、心の調子も整えてくれるよう。ドラマティックなミュージカルは、大作を描くときの大きな力に。特に、ロンドンのシアターで観た感激の「オペラ座の怪人」、そして映画「コーラス」がお気に入りです。
「永田萠の音楽会」…いつか、そんな展覧会が開催できるといいですね。
やなせたかしさんが名付け親の「カラーインクの魔術師」は、今ではすっかり“永田萠”の冠詞となりました。カラーインクはガラスの小さな壜に入った色の付いた水状のもので、様々な色彩の壜が並ぶ棚は、それだけでも美しいオブジェのようです。
デビュー当時から現在まで、弱点はありながらも飽きることなく使い続け描いてきたその画材の特長は、透明度の高さと美しい発色です。ただ反面、光にもろく褪色するという大きな短所も抱えています。しかし、そんな特質が、一瞬のうちに変化する光や風、水そして花と妖精などの夢の世界を描くには相応しい画材とも言える為、長所も欠点も含めてカラーインクの魅力に飽きることがありません。制約の中で持ち味を最大限に活かす工夫をするという作業もまた、大いに楽しんでいます。
実はカラーインクには白の色がないのですが、花や雲など白い色をどのように表現しているか、それも併せて“永田萠”のカラーインクの技法と特性を、是非とも原画展にてお楽しみください。
初夏が近づいたある日の“もえさん”の装いは、桜モチーフでモノトーンの着物。半分が白地で桜の部分は墨色、そしてもう半分はその逆で墨色地に桜が白色。袖を通すと白と黒が左右半分ずつ表れる片身替りと言われる粋なこの着物に、帯揚げ&帯締めは葉桜をイメージさせる緑を合わせる。
…といった感じで、着物に小物を合わせる時にも色使いに気を配る“もえさん”です。30代後半から着物との付き合いが始まり、今ではお気に入りの着物や和小物も相当増えた様子。その中には、“もえさん”自身がデザインした着物や帯もあります。
2002年からは、白い絹地に着物の染料で描く「絹絵」という分野にも挑戦して、念願の絹絵だけの展覧会を2007年9月にフランスにて開催しました。これからも、公私共に“着物”とは長い付き合いになりそうな“もえさん”です。
サンタクロースのふるさとノルウェー・オスロ市から「サンタランド」の認定を受けた町、北海道広尾町の「広尾サンタランド」からクリスマス時期に届く「サンタメール」のイラストは毎年、描き下ろしの永田作品が使われています。小さな妖精のサンタクロースが登場することも多く、“もえさん”らしいモチーフのクリスマスカードは「可愛い♪」と好評です。
例年、11月上旬より「サンタランド」もしくは、最寄の郵便局より申し込むことが可能です。
ご興味がある方は、是非ご利用ください。
2015年で画業40年を迎える“もえさん”が、これまでに描いてきた作品点数は一体どれくらいだと思われますか?全ての作品は、妖精村にて保管されていますが、実は、正確な点数は本人もそして妖精村でも把握出来ていないのが現状…。ですが、出版本も150冊を超え、新聞連載や原画展への描き下ろし、小さなカットイラストなども含めると…おそらく、何万点にもなるのではないでしょうか!?
特に人気の高い作品は、高度な印刷技術により原画に近い仕上がりで「複製画」としてもお楽しみいただいてはいますが、やはり、原画の持つ魅力には敵いません。原画展開催の折には、是非、「原画」の放つ作品の力強さ、色彩の美しさなどを実感いただければと思います。
以前の“もえさん”は絶対の紅茶党でした。大好きな紅茶を飲むのに“もえさん”らしいこだわりもあって「美しいティーカップを食器棚が花畑に見えるように並べたい。」そう考え選んだカップは、イギリスで買ったピンクの野ばらを散らしたもの、香港で見つけた赤いケシの模様、パリで出会ったスミレやキンポウゲの野の花を描いたもの…等々。その日の気分で花柄のティーカップを選んで紅茶の豊かな香りを楽しみながら、そのカップに出合った時の記憶を辿って過ごす時間が好きだと言います。
苦手だったコーヒーを飲むようになったのは「コーヒー党の夫の影響」だとか。豆を挽いて入れる香りの芳ばしさに惹かれて、少しずつ飲み始め美味しさを感じるようになったそうです。随分前にコーヒーCMの出演依頼があった時、飲めないコーヒーを「おいしい!」と言う訳にもいかずお断りをしたことが今となってはちょっと残念。
ギャラリー妖精村の近くにある京都で有名な老舗コーヒー店に時折、待ち合わせなどでコーヒータイムを楽しむ“もえさん”に、バッタリと遭遇することがあるかも…!?
永田萠作品の多くには、小さく“もえ”というサインが入っています。その小さく書かれたサインには、ある秘密が…。実は、21世紀になり“もえ”から“Moe”に変わりました。あるイラストには、輝く水面の光の中に帯揚げ&帯締めは葉桜をイメージさせる緑を合わせる。
…といった感じで“Moe”の文字が隠され、“もえさん”の遊び心が感じられます。サイン会で小さな女の子から「この妖精だいすき!」と嬉しいひとことを貰った“もえさん”は、「ありがとう。お礼にお花をプレゼントするわね」と愛用の銀ペンで可愛いお花のイラスト付サインを組み合わせたり、男の子が魚の沢山描かれたイラストを持って並んでいると、「もう一匹お魚を増やそうね」と、小さな魚の絵をサッと描きこんだり。
子供たちは嬉しそうに見つめます。“もえさん”が書く小さなサインは、喜びや楽しみを生み出す魔法の印なのかも知れませんね。
教職一家の環境で育ったせいか、子供の頃から一度も「学校の先生にだけはなりたいと思ったことはなかった」という“もえさん”。そんな“もえさん”が、2007年春から、母校である京都成安造形大学にて客員教授に就任し、教壇に立つことになりました。
きっかけはふたつ。ひとつは恩師からの熱心な励まし、そして、弟子を持たない“もえさん”は画業30年を迎えた頃から、先輩から受け継いだものや今まで培った技術を、次の世代に伝えたいと思い始めていました。これが、もうひとつの理由です。
講義は、イラストレーションの定義や制作方法について学び、読み聞かせあり永田作品のスライド上映あり時にはクイズもあり、といったように毎回、趣向を凝らした内容で進められます。個別の技術指導では、時間を延長することもしばしばで、生徒のみなさんは熱心に授業を受けているようです。
授業を行なうことを、「“教える”というよりは、“伝える”」という感覚を持って臨んでいる、という“もえさん”。だから、みんな熱心に耳を傾けているのかも知れません。先生の素質十分な“もえさん”です。
“もえさん”の作品は、あるがままの情景をそのまま描くのではなく、少し蓄積して心の中で発酵させ、浮かびあがってきた印象をすくい取る…という感じでしょうか。
ですから現場でスケッチ、という姿はあまり見かけませんが、それでも時折小さなスケッチブックを広げることもあります。旅先なので季節の花や美しい風景に出合った時、“もえさん”は先ずその対象をしっかりと観察し、色の構成などを記憶に焼きつけます。また、カメラの助けを借りて記憶に残すこともあります。
以前、“もえさん”とこんな会話を交わしたことがありました。「目の前にある花を描こうと思って、先ず私は葉っぱに触ってみるの。どうしてだと思う?」さて、その答えはと言うと―――「その葉っぱに妖精が乗っても大丈夫かと、確かめているのよ。」この時の“もえさん”は、まさに妖精の目線で花を観ているのです。
“もえさん”には、作画だけでなくエッセイ執筆の依頼もあります。絵本は文章と絵のコラボレーションですから、絵描きさんたちは言葉にもとても敏感。
“もえさん”に会話を含めた「言葉」に大きなこだわりと魅力を感じています。話す時も書く時も、美しくわかりやすい、これが大きなポイント。言葉の訓練の機会も見逃しません。文章は短く仕上げるほど難しいと言われますが、日本には昔から和歌や俳句などの短文文学があります。
“もえさん”もとても好きな世界で、実は川柳のおけいこを続けています。人生そのものを詠み込む川柳が一番のお気に入りだとか。そのあたりのエピソードと発句は、エッセイ画集『花ときどき風』(東京書籍 刊)でご覧いただけます。
永田作品には、動きがあります。その表情やポーズから妖精たちの会話が聴こえてきそうになったり、風が頬にあたるような感覚を受けたり…。暫く眺めていると、ストーリーが頭に浮かび、想像がどんどん広がっていきます。
主なモチーフである「妖精」は実際に目に見える訳ではありませんが、それを存在感のある1点の絵に表現する為には、大事な舞台である花や自然のきちんとした観察と描写、そして大いなる想像力が不可欠です。
何もないところから生み出していく、ファンタジーの世界を描く力を発揮するには、沢山の経験や感動も栄養素となります。
展覧会や講演会、そしてプライベートでも国内外を問わず色々な土地に出向くことの多い“もえさん”。海外なら一ヶ月程の旅の計画をすることもあります。そんな時は、何ヶ月か前からその心積もりで仕事を調整していきます。
忙しい毎日は更に何倍にもハードになり、出発まで徹夜をして絵を描きあげることもあります。でも、そんなバタバタを繰り返しても旅はやめられません。見知らぬ世界への好奇心、生活空間を一歩離れるとたちまち包まれる開放感。
「一人になりたくて旅に出るのではないの。新しい街で新しい友達をつくり、旅の空の下で遠く懐かしい友達を思い出して、いつも自分が一人ではないことを感謝するために、私は旅に出たい」――そう話す“もえさん”の旅は、いつもと違う風景、風、光、匂い、出会った人達との確かな時間を記憶に留めて、いつしか白い紙の上で生まれ変わるのです。
日頃から、色々なことへの好奇心もあり、「とりあえず試してみよう!」と何に対してでも柔軟性のある“もえさん”。仕事の場合だと、「絹絵」が典型的な例でしょうか。
透明感、発色の美しさ、筆使いの軽やかさなどはカラーインクの大きな利点ですが、唯一の弱点は褪色。極端に光に弱い為、展示の際は常に薄暗い会場でしかご覧いただけません。
「もっと明るい場で絵を観ていただきたい…」という気持ちをずっと抱えていた“もえさん”が数年前に偶然出合ったのが、着物の染料でした。これが、驚くほどカラーインクの技法に似ていて、なのに、こちらは褪色を気にする必要がない画材。
ということで、絹地に染料で描く「絹絵」が誕生しました。当初は、紙ではなく絹地に描くことがままならず、試行錯誤を繰り返しました。今ではすっかり技術を身につけ、これも“もえさん”の強いチャレンジ精神の賜物でしょう。
永田作品では、季節折々の花々が描かれます。そして、雨や水辺のシーンでは、“露のしずく”がしばしば登場します。
この“しずく”、思わず手で触れてみたくなる程の透明感あるリアリティさで“もえさん”本人も「本物みたいでしょ♪」と満足気。一体どのように描かれているのか、とても気になるところ…ですが、そこは独自技法の為、企業秘密です。
原画をご覧になる機会があれば、是非、じっくりと“露のしずく”鑑賞もなさってみてくださいね♪
“もえさん”の手紙好きをご存知の方も多いかと思いますが、頂戴したお便りに返事を書く時間がなかなか取れないのが悩みです。外出の予定がない日は作画の前にお茶を飲みながら2~3通、仕事先の喫茶店で絵はがきを何枚か、という風にして、溜まったお返事を出します。
手紙の楽しさはやりとりだけではありません。書きやすい筆記用具や美しい便箋を揃えることは勿論、切手のコーディネートにもこだわります。お手紙の顔のようなものですから、旅の途中もその地方の綺麗な花の切手を見つけては買いためておき、季節や相手のお顔を思い浮かべながら、沢山の中から選び出すのです。
“永田萠”切手もこれまで○種が出ました。「自分のイラストのカードに自分のイラストの切手を貼って出せるなんて、最高のぜいたくね♪」と“もえさん”。
今では遊び心のある切手も多いですが、1982年に初めて“萠”切手が登場した時、これまでにないファンタジックな絵柄に、封緘シールだと思った人が沢山いたそうです。
京都三大祭のひとつ、“祇園祭”では毎年、各々の「山」&「鉾」で祭礼品として、オリジナル手ぬぐいが販売されます。大蟷螂と御所車という珍しい組み合わせで、大きなカマキリのからくりでも知られる人気の高い「山」のひとつに「蟷螂山(とうろうやま)」があります。その「蟷螂山」の2013年度の手ぬぐい&Tシャツのイラストデザインは、“もえさん”が手掛けました。手ぬぐい&Tシャツ共に2バージョンあり、評判も上々であっという間に完売御礼。通常は、その年限りの販売なのですが、好評の為、翌年も再登場の運びとなりました。
「名前は、生まれて初めて親から貰うプレゼント。名付けられた瞬間に、その名前には命が宿るの」と、“もえさん”。この考えは、決して人間や動植物など“生物”だけに当てはまる訳ではないようです。
絵本作家でもある“もえさん”は、物語の構想を練る段階で、登場人物の名前が決まらないと物語が前へと進まないとか。名前をつけると、物語がするすると動き出すそうです。
2009年4月より一年間、京都新聞にて連載されていた『クリコさんと笑わないクマ』では、雑貨屋さんを営む女性とクマのぬいぐるみのお話を描くことになったのですが、やはり、“名前”が決まるまではなかなか物語の内容がまとまらなかったそう。
先ずは、雑貨屋さんの名前を考えて、「ひなげし屋」にすることに。“ひなげし”はフランス語で“コクリコ”なので、そこから主人公の名前を“コクリコクリコさん”と命名。そして、ようやく物語が動き出しました。
因みに、この物語は、後に加筆・修正され絵本化となりました。妖精村にてお求めいただけます。
花や妖精をテーマに描く“もえさん”のアイデアの源泉は、自然に触れる時間。日々の生活の中にも、そんな時間を出来る限り持ちたいと考え、お天気の良い日は庭に出て花の世話をします。自宅の庭は純和風で花木が多く、定期的に庭師さんに手入れをお願いしていますが、毎日のお世話は“もえさん”の仕事です。
ある年の冬、友人から少し弱っていた白い椿を譲り受けた際、大事に育てた甲斐あって一輪だけ美しく咲いたことがありました。五月頃からは白いツツジが咲き、夏になるとお母さまの形見のピンク色の百日紅が満開に。優美なオレンジ色のノウゼンカズラは楓の木に絡めて、まるで楓に大輪の花が咲いているように楽しんだり、雨の日の夜だけ、キラキラと光る濡れた敷石と紫陽花をライトアップするなど、ちょっとした遊び心も取り入れています。
小さな庭だけれど、四季折々の表情を見せてくれる大切な空間で花を育て、見つめ、その風情に触れながら絵心を絶やさない暮らしをこれからも続けていきたいと願っている“もえさん”です。
子供時代、“もえさん”は「想像力が育たない。」と、ぬり絵を買って貰えませんでした。周りのお友達はみんな持っていて、楽しそうに遊んでいるのに…「想像力なんていらないから、ぬり絵が欲しい!」と、心の中でいつも叫んでいたそうです。
でも、その代わりに家の襖や壁には自由に絵を描いても良いと言われ、弟妹達と一緒にお絵かきを楽しんでいました。子供の遊び心や好奇心を存分にくすぐる大きなキャンパスに、その時描きたいものを思いっきり表現する。作家活動においての色彩感覚や構想のひらめきは、この頃に培われたのかも知れません。
それでも、ぬり絵への憧れが払拭出来なかったのか、あるいはその反動なのでしょうか、初めて『大人のための美しいぬり絵・永田萠編』(学習研究社/’06年12月刊)が発売された時の“もえさん”は、とても嬉しそうでした。
愛らしく、どこか気まぐれで神秘的な猫は、“もえさん”の描くファンタジックなストーリーには欠かせない存在です。「萠さんは猫がお好きなの?」という質問をされる方も多いのですが、どちらかというと性格的には“犬型”と“もえさん”自身は考えています。
しかし絵の対象としては、猫の持つ謎めいた雰囲気や、どこか哲学的な風貌に絵心を掻き立てられるとか。「猫って青やピンクや緑やあり得ない色で描いてもぴったりとおさまるの。それも猫の持つ不思議な魅力ね」と。
“もえさん”の絵本『ラング・ドゥ・シャ』では、ユニークで豊かな発想から生まれた沢山の猫たちに出会うことが出来ます。
私達は、旅行はもとより日常でも様々な乗りものを利用していますが、みなさんはどれがお好きですか?“もえさん”は旅行が大好きなので、仕事での出張は勿論、プライベートでも少しの時間を見つけて出掛けます。野の花を訪ねる旅だったり、人に会う為だったり、珍しいお祭り見学だったり。旅行は想像力の泉をいつも満たしてくれるのです。
“もえさん”が一番好きな移動手段は列車です。特に地方の在来線などで沢山の駅に停車しながら、程よいスピードでゴトゴト走る列車の旅は、時間が惜しい“もえさん”にとっては贅沢な移動手段。線路際に咲く野の花や美しい木立ちの緑や移り変わる空の表情などに目を留めながら、豊かな時間を満喫するのです。
反対に苦手なのは飛行機です。でも、自分に羽根があったり、鳥に乗れたり、あるいは愉快な形の飛行船があれば、最もお気に入りの手段は「飛ぶこと」。
“もえさん”がいつも描いている妖精の夢や情景は、憧れの証のようです。
亡きお母さまが花好きの方だった為、幼い頃からいつも身近に“花”のある環境で育った“もえさん”は、自身も花が大好きで、今も自宅の玄関先・ベランダ・庭・家の中には、どの季節であっても花が途切れることはありません。
仕事が立て込んでいる時は、花のお手入れをすることがリフレッシュにも繫がります。描くイラストには、愛らしい妖精と共に様々な“花”が登場します。普段から、花に接しながら「この花の葉っぱだと、“妖精”が座るのにはピッタリね♪」と、珍しい花の場合は、きちんと資料を集めたり、実際に見に行ったりもして描きます。
これからも、色鮮やかなカラーインクから誕生する“花と妖精”であふれる「永田萠の世界」をお楽しみください♪
短大入学の折に京都へ出て来てから今までの間、何度も引っ越しを繰り返してきた“もえさん”。大学近くの下宿からはじまり、東本願寺近くのアパート、兼好法師が庵をかまえたと言われる双ケ丘を正面に見る常盤のマンション、御所近くのマンションetc…。
そして、テラスから大文字山を望める現在のアトリエ兼住居の一軒家まで、両手両足では数えることが出来ないくらい引っ越し経験豊富なエキスパートです!気分も変わり、新しい環境がもたらす好奇心が公私共に良い影響を与え、“もえさん”を移動させてきたようです。
妖精村の事務所&ギャラリーもこれまでに3回移転していますが、エキスパートな“もえさん”の指示にていつも段取り良く準備が進みますお引っ越し好きな“もえさん”ですが、今のところは、アトリエも住居も妖精村も引っ越しの予定はありません。その代わり今は、仕事の合間を見つけては、アトリエや住居のプチ改装やレイアウト替えで気分転換をはかっています。
仕事やプライベートで、旅行が本当に多い“もえさん”ですが、近年はフランスに出掛ける機会も多くなりました。美術探訪だけが目的ではなく、フランスに友人が沢山いて、しかも年々増えていくのも大きな理由です。
バカンス大国のフランス人にとって、海外で長期間お金をかけずに楽しく滞在することはお手のもの。お金持ちならいざ知らず、たいていは目的地に知人がいないかどうかを先ずチェック。それは友人だけでなく、友人の友人だったり、そのまた知人だったり。フランス人は、ツテを頼ってホテルに泊まらずに移動していく得意技の持ち主なのです。
そういう訳で、“もえさん”宅にはそれまで会ったこともない泊り客があるのも珍しくありませんが、必ず「フランスに来たら是非うちに泊まるように。」と強く勧めてくれます。かくして、“もえさん”にも、ホテルを使わずに長く滞在できるフランスでの拠点があちこちに出来ると言う訳です。
知り合いの紹介とは言いながら、見ず知らずの外国人を泊める。ちょっと面倒くさそうですね。でもそこは流石に旅の達人。フランス人は宿主に面倒をかけず、でも愛想が悪すぎる訳でもなく、程よい付き合い方を心得ています。その絶妙なお泊り上手に感心する“もえさん”は、「とっても勉強になるの。」だとか。
こうして“もえさん”の旅スタイルも「友人宅を訪ねる旅」に変わりつつあり、フランス行きは「帰る」に近い感覚へ。中身も濃く豊かになっていくのです。
2015年3月25日より、京都府警で「平安なでしこ交番」がスタートしました。女性警官が24時間体制で対応可能な“女性が利用しやすい交番”を目指し、府内・27交番が指定され、その目印となるシンボルマークを新たに設置することに。そのシンボルマークは、「なでしこの花」と「女性警官」をイメージして、“もえさん”がデザインしました。
“もえさん”のアトリエには仕事柄いくつもの本棚があり、本がいっぱい並んでいます。ついこの前書店で見かけたのに、買おうと思った時にはいつの間にか絶版になっていて、それ以来その本に巡りあえないという悲しい思いをしたことがある“もえさん”は、「本との出合いは一期一会」と考えています。
面白そうと思ったものを見つけたり、気になる作家さんを知った時は、その本との縁が切れないうちに迷わずに買うようにしているとのこと。そして「面白いものを創り出した方々への感謝の意を込めて、たとえ古本で買えるものでも、本は新しいものを買うようにしているの」という“もえさん”の本棚に並ぶ本たちは、図鑑に絵本、詩集に時代小説とバラエティ豊か。
それはまるで、色々なことに興味がある“もえさん”そのものを表しているかのようです。本棚には、“もえさん”の興味と縁がいっぱい詰まっています。
“もえさん”の瞳は黒目がちで、いつもきらきらと輝いています。美しいものを見たり、親しい人と一緒の時は、更に踊るように光があふれます。一人で物想いにふけっていても、ひときわ煌くとそれは楽しい計画をたてているか、作画のアイデアが浮かんだ時。あるいは、カラーインク作品は塗り重ねや修正が出来ない為、筆を入れる前に頭の中で殆ど完成させているので、ひと足早い出来上がりの喜びかも知れません。
時折見かける強いまなざしにも、物事に真剣に取り組む姿勢と誠実さがうかがえますが、妖精の世界に親しむ“もえさん”には他の人には見えないものも見える、そんな特別な力が宿っているようにも思える表情豊かな瞳です。
依頼者の要望や、テーマに合わせて描いていくイラストレーションの仕事で、「性別を問わず、幅広い年齢層のみなさんに親しんでいただけるような絵を…」というご希望があった場合には、“もえさん”はメインカラーに“みどり色”を選ぶことが少なくありません。
緑は、全ての花の色に添う自然界には欠かせない万能カラーでもあり、新しい季節のはじまりや生命の息吹を感じ、また、身近にあるだけで元気が湧いてくる希望の象徴のような色彩でもあります。
そして、存在感をもちながら決して重苦しくない緑色の特質が、多くの方に親しみを感じさせるのでしょう。
“もえさん”の「萠」の名前は、春の芽吹きを表す緑、萌黄色の一文字から付けられました。
「イラストレーター」であり、「絵本作家」でもある“もえさん”。絵も文章もひとりで担当して一冊の絵本を仕上げることもありますが、依頼者の要望にあった絵を描くイラストレーターでもある為、他の作家さんが書かれた文章に「挿し絵を描いて欲しい」という依頼を受けることも。
そういった依頼の中には、いくつもの昔話や名作シリーズもあります。「ふしぎの国のアリス」・「ピーターパン」・「かぐやひめ」etc…。「人魚姫」もその内のひとつです。この「人魚姫」、実は“もえさん”にとってはとても想い出深い絵本なのです。幼稚園に通っていた5歳の頃に見て、その時に最も印象的だった一場面をずっと忘れられなかったとのこと。それは、「寝室で女の人が
短剣を持っている」シーンだとか。1枚の絵から、幼いながらも悲しみが伝わってきたことを今も覚えているそうです。
昔から多くの人に読み継がれていて、“もえさん”にとっても心に残るこの一冊の絵本との出合いが、もしかしたら将来の絵本作家への道しるべになったのかも知れませんね。
“もえさん”がカラーインクで絵を描く時に使う筆は、主に“面相筆”です。面相筆は穂先が細長く、細やかな描写をするのに最適なので、デビュー以来ずっと愛用しています。
カラーインクは水のように粘度が低く、繊細な線を表現するには穂先の揃った筆が必需品です。その為、“もえさん”は新しい面相筆を下ろす時は必ずその軸に、いつ使い始めたものか分るように日付を入れています。
最近は穂先用の動物の毛が揃わないらしく、良質の筆は手に入りにくくなっているので穂先が少し開いて描きにくくなってしまったものは、「絹絵」の染料などカラーインクより粘度の高い画材で描く際に用い、最後まで大切に使っているようです。
面相筆は、“もえさん”にとってとても大切な道具のひとつです。
「永田萠の世界」に欠かせないモチーフと言えば、“花と妖精”ですが、その他にも鳥や動物たち、魚、フルーツなど、シーンやテーマに合わせて様々に描かれています。
また、生き物だけではなく、色彩の珍しいお洒落な雑貨や、コミカルな形をしたおもちゃetc…。思わず微笑んでしまう小さな脇役たちも、一緒に画面を引き立てています。
妖精の羽根や葉っぱの中に小さなお家などの情景が描かれているのも特徴のひとつです。“もえさん”がどこかで出合った印象深いものは全て、いつか出番がやってくるまで記憶の引き出しにストックされます。
ある日スッと開いて“もえさん”のフィルターを通り、そこに特別なエッセンスが加わると、魅力たっぷりのモチーフとして紙上に活き活きと生まれ変わるようです。
「花と妖精」が作画の大きなテーマとなっている“もえさん”は、絵の中に人工的なものを描き入れることが殆どありません。ただ、「夜景」だけは例外で、とても好きな情景のひとつです。
女神が天から街を見守るような構図や天使たちが幸せを運んで来てくれるイラストなど、紺や深い青などの濃い寒色のスペースが多いにもかかわらず、街の明かりが人々の幸せな生活を象徴しているようで、温かな気持ちにしてくれる作品たち。画集やモエグッズでも人気があるイラストです。
“もえさん”は「絵を描く」という本業の他に、「講演会」や子供たち向けの「課外授業」のご依頼をいただくことも少なくありません。大人であっても子供であっても立場や年齢を問わず、みなさんの前でお話をする機会には、『夢みる心』というテーマで語ることが多い“もえさん”です。
「本当に大切なものは目では見えない」と。それは気持ちであったり、優しさであったり想い、夢、希望、愛など心で見るものであって形として目に見えるものではありません。そこで登場するのが「想像力」、イマジネーションする力です。“想像する”ことによって、相手の想いを感じることも自分自身の気持ちに気づくことも、未来に希望を抱くきっかけにも繫がっていく…という訳です。想像力を働かせ、楽しくワクワクと心をときめかせることが、心身を元気に保つ秘訣なのかも知れません。
展覧会などでサインを求められた際には、「夢みるこころ、いつまでも」と書き添えている“もえさん”です。
“もえさん”のイラストで、最も多く描かれている「妖精」は、その殆どが背中に羽を持っています。これは、何も縛られることのない自由なものとしての証で、時間や空間を越えて飛びまわる為のものです。木々や草花に囲まれて育った“もえさん”にとって自然とは、身近に感じられると共に、時として人が踏み入ることの出来ない不思議な力を持つ存在です。
目には見えないけれど、もしかしたらそこに居るかも知れない妖精は、そんな自然への憧れが形になったものなのかも知れません。“もえさん”の描く妖精たちは、穏かだったり、お茶目だったり、と物悲しいものは少なくて、あまり悲観的に物事をとらえないプラス思考な“もえさん”の心を映し出しているように感じられます。
「もしも生まれまわれるなら、次は妖精がいいわね」と、微笑む姿にもどことなく似ています。
自宅にお客さまをお迎えすることも少なくない“もえさん”。旦那さまが昔、フランスで暮らしていたこともあり、海外からもゲストの方々が年に数回遊びに訪れます。2007年より母校・成安造形大学で講師をしており、時には教え子たちが遊び来ることも。
友人・知人と様々なゲストが訪れますが、“もえさん”流のおもてなしの心得がいくつかあります。先ず一つ目は、“花々でのお迎え”。普段から花を絶やさない“もえさん”ですが、ゲストをお迎えする際はゲスト好みの花を飾ります。
特に海外からのお客さまの場合は、外国であまり見かけないであろう花を中心に用意します。例えば、ムラサキシキブ・ヤマボウシ・ボケ・桃などなど。その際、日本の壷に生けるのもポイントのひとつだとか。二つ目は、“お料理”。季節の食材やゲストの好みを考えながら、テーブルセッティングにもこだわります。因みに“もえさん”は和食担当、“旦那さま”は洋食担当で、それぞれ自慢の腕をふるいます。
「花を飾る」ことも「お料理」でのおもてなしも、お客さまに喜んで貰えることを一番大切に、真心を込めてお迎えするよう心掛けている“もえさん”です。
“もえさん”の得意料理は“和食”全般で、お気に入りのひとつに「蒸し料理」が挙がります。
キッチンでは日々、陶器製の蒸し鍋が大活躍しています。“もえさん”にとっての蒸し料理の利点は、味付けをあまりしなくても素材そのものの甘みで十分に美味しく味わえること、一度に沢山のお野菜を摂れること、そして何よりもヘルシーさが一番!とのこと。
「温かいものは温かいうちに戴く」が基本の“もえさん”宅の食卓には、美味しそうな湯気を立てながら蒸し料理が並ぶことが多いようです。
心を穏かに、そして集中して絵が描けるように…と、アロマをたいたりお気に入りの音楽をかけたり旅先で見つけた可愛い小物を飾ったりと、アトリエでは気持ち良く過ごせるように様々な工夫を凝らしている“もえさん”です。
暗い部屋では気持ちも沈みがちになるからとカーテンを閉めたままにしないで、季節の良い時期には窓も開けて、日の光や風を感じながら絵を描くことも多いとのこと。
「心配事や悩み事があっては、絵がくもってしまうから」と、アトリエだけではなく気持ちも整えてから絵を完成させていくそうです。“もえさん”の絵を見た方々が明るく楽しい気持ちになってくださったなら、それは“もえさん”の気持ちが絵を通して伝わったからかも知れないですね。
絵描きであると同時に、文章の仕事依頼も多い“もえさん”。「絵のようにはスムーズに書けない」という“もえさん”ですが、幼い頃から大の本好きということもあり、言葉の表現力にも定評があります。
これまでに新聞や雑誌で沢山の連載を持ち、物語やエッセイを綴ってきました。それらはたいてい1冊にまとめられ、エッセイ画集や絵本として出版されています。
新聞では、週に一度の連載を7年間務めたこともあります。知らない間に貯金されていくように作品のストックが増え、1~2年の周期でそれが本になるという過程が嬉しいようで、大変そうに見えて「連載」のお仕事が、実は好きな“もえさん”です。
“もえさん”の声は、とても聞き取りやすく、よくとおります。そんな特質も手伝ってか、“もえさん”の朗読は人気があります。
2010年と2011年の2年間、兵庫県のご依頼で引き受けることになった「絵本の伝承師養成講座」で講師を務めた際にも、講義の中で絵本の読み聞かせを行なう機会がありました。ジャンル別のお薦め絵本の中から20冊近くを、実際に朗読しながら紹介することになり、それぞれの絵本の内容に合わせて声のトーンを使い分け読み聞かせを行なった“もえさん”。
中には、大阪弁で書かれた文章もあり、通常の講演会や講義では標準語のアクセントで話す“もえさん”も、この時ばかりは“ネイティブ”らしく正統な関西弁で絵本を読みあげました。
読み手が上手だと、聞き手も絵本の世界にどんどん引き込まれていきます。講義終了後の受講生のみなさんからのアンケートには、「“もえさん”の絵本朗読、とても良かったです!もっと聞きたかった!」という声が多数寄せられていました。
イラストや絵本の制作以外にも、講演会、絵画教室、コンテスト審査などなど、多岐に渡る仕事のご依頼をいただきます。その中には“ワークショップ”も含まれますが、近年で印象的だったものを2つご紹介いたします。
ひとつめは、親子で楽しめるワークショップとして、段ボール素材を組み立てた後に色を塗ったり絵を描いたりして“キッズサイズ”の家を作り、最終的には全ての家を集めて「色の街を作る」という内容。“もえさん”は家作りの指導にあたりました。参加者は幼児と小学生、その家族の総勢約100名。みんなが、ワイワイ賑やかに作業に取り組んでいる姿を見て、途中から“もえさん”も、「わたしも描きたくなってきたわ」と、サンプル用の家に描き始めることに…。みんなが盛り上がる、楽しい企画となりました。
ふたつめは、巨大地上絵を作成するワークショップ。保育園、幼稚園、小学校、一般の方々が参加して、割り当てられた各パートを絵の具、サインペンなどで期日までに仕上げ、後日、大広場で集めて全てを繋げ合わせました。完成させると、1万m2もの“萠イラスト”の巨大地上絵に!当日まで、イラストの全貌を知らされずに描いていた参加者のみなさんは、出来上がった巨大絵に大歓声をあげていらっしゃいました。
このような楽しいワークショップも時折、行なっています。